
現代のソフトウェア開発、特にWebサービスやAPIサーバーの分野では、「同時にたくさんの処理を、効率よく実行する」能力、すなわち並行処理が非常に重要です。
Go言語(Golang)が多くの開発者から支持を集めている大きな理由の一つに、この並行処理を驚くほどシンプルかつ強力に実現する「goroutine(ゴールーチン)」という機能があります。
この記事では、goroutineが一体何なのか、そしてなぜそれが画期的なのかを、多くの人が慣れ親しんでいるJavaの「スレッド」と比較しながら、分かりやすく解説していきます。
🚀 goroutineとは? - "超軽量"な実行単位
一言でいうと、goroutineは「Go言語が管理する、非常に軽量な並行処理の実行単位」です。
「スレッド(Thread)」と似ていますが、決定的な違いはその「軽さ」にあります。
- 起動が速い: goroutineの起動は、OSのスレッドを起動するよりもずっと高速です。
- メモリ消費が少ない:
- OSのスレッドは、通常1MB以上のスタックメモリを確保します。
- 一方、goroutineはわずか数KB程度から始まり、必要に応じて動的に拡張されます。
この「軽さ」のおかげで、Go言語では数千、数万、あるいはそれ以上のgoroutineをためらうことなく、簡単に起動・実行させることができます。
記述がシンプル
goroutineの使い方は驚くほど簡単です。
実行したい関数の呼び出しの前に、 go というキーワードを付けるだけです。
package main import ( "fmt" "time" ) func sayHello() { fmt.Println("こんにちは! (goroutineより)") time.Sleep(100 * time.Millisecond) } func main() { fmt.Println("メイン処理開始") // 'go' を付けるだけで、sayHello() が別のgoroutineで非同期に実行される go sayHello() fmt.Println("メイン処理終了(goroutineの完了を待たずに進む)") // goroutineが実行される前にメインが終了しないように少し待つ time.Sleep(200 * time.Millisecond) }
go sayHello() と書くだけで、 sayHello 関数はメインの処理とは別の流れ(goroutine)で実行されます。プログラマーは複雑なスレッド管理を意識する必要がありません。
☕ Javaのスレッドと比較する
では、goroutineの「軽さ」を、Javaの伝統的なスレッドと比較して具体的に見てみましょう。
Javaで並行処理を行う場合、基本的にはOSが管理する「スレッド」を直接的に(あるいはスレッドプールを介して間接的に)扱います。
Javaのスレッドは"重量級"
Javaの Thread は、OSのスレッドと1対1でマッピングされることが多く(実装によりますが、一般的に)、goroutineに比べると「重量級(Heavyweight)」です。
- 生成コスト: スレッドの生成と破棄には、OSレベルでのリソース確保やスケジューリングが伴うため、goroutineよりも時間がかかります。
- メモリコスト: 前述の通り、スレッドごとに確保されるスタックメモリが大きいため、メモリを圧迫します。
例えば、「リクエストが来るたびに新しいスレッドを作る」ような設計は、Javaでは現実的ではありません。すぐにリソース(メモリやOSが管理できるスレッド数の上限)を使い果たしてしまうからです。そのため、Javaでは通常、あらかじめ決まった数のスレッドを作成しておく「スレッドプール」を使ってスレッドを使い回します。
Javaのサンプルコード
Javaで新しいスレッドを起動する場合、以下のように Thread クラスや Runnable インターフェースを使います。
// Javaで新しいスレッドを起動する例 public class JavaThreadExample { // 1. Runnableインターフェースを実装する方法 static class MyTask implements Runnable { private String taskName; public MyTask(String name) { this.taskName = name; } @Override public void run() { // ここが別スレッドで実行される処理 try { System.out.println("タスク実行中: " + this.taskName + " (スレッド: " + Thread.currentThread().getName() + ")"); Thread.sleep(100); // 何かしらの処理をシミュレート System.out.println("タスク完了: " + this.taskName); } catch (InterruptedException e) { e.printStackTrace(); } } } public static void main(String[] args) { System.out.println("メインスレッド開始"); // タスク(Runnable)を渡してスレッドを作成 Thread t1 = new Thread(new MyTask("タスク1")); Thread t2 = new Thread(new MyTask("タスク2")); // スレッドを開始 t1.start(); t2.start(); // 2. ラムダ式 (Java 8以降) を使うともう少し簡潔 Thread t3 = new Thread(() -> { try { System.out.println("タスク実行中: タスク3 (スレッド: " + Thread.currentThread().getName() + ")"); Thread.sleep(100); System.out.println("タスク完了: タスク3"); } catch (InterruptedException e) { e.printStackTrace(); } }); t3.start(); System.out.println("メインスレッドは先に進む"); // 本来は t1.join() などでスレッドの終了を待つ処理が必要 } }
Goの go キーワード一つと比べると、Javaでは Runnable の定義や Thread オブジェクトの生成、 start() メソッドの呼び出しなど、より多くの「お作法」が必要になることがわかります。
(補足: 近年のJavaでは、この問題を解決するためにProject Loomによる「Virtual Threads(仮想スレッド)」という、goroutineに非常に近い軽量な仕組みが導入されつつあります。これは、Goの成功がJavaにも影響を与えた良い例と言えるでしょう。)
💡 なぜgoroutineはスゴイのか?
goroutineの利点は「軽さ」と「手軽さ」だけではありません。
1. Goランタイムによる賢い管理 多数のgoroutineは、Goのランタイム(実行環境)によって、OSが管理する少数のスレッド上に効率的に割り当てられます(M:Nスケジューリング)。開発者はこの複雑な割り当て(スケジューリング)を一切気にする必要がありません。
2. Webサーバーとの圧倒的な相性 Webサーバーが同時に1万のリクエストを受け取ったとします。 Goなら、リクエストごとに1つのgoroutine(合計1万goroutine)を起動しても、多くの場合問題ありません。 一方、Javaの従来のスレッドで同じことをしようとすると、1万スレッドが必要になり、ほぼ確実にシステムが破綻します(スレッドプールを使っても、プールサイズの上限=同時に捌けるリクエスト数、という制約が生まれます)。
3. チャネル(Channel)による安全な通信 Goには、goroutine間で安全にデータをやり取りするための「チャネル(Channel)」という仕組みが言語レベルで組み込まれています。これにより、複数の処理が同時に一つのデータにアクセスしようとして起きる厄介な問題(競合状態)を、比較的簡単に避けることができます。
🏁 まとめ
goroutineは、Go言語の並行処理を支える**「超軽量」で「シンプル」な実行単位**です。
goキーワード一つで簡単に起動できる。- メモリ消費が極めて少なく、数万個作っても問題になりにくい。
- 従来のJavaの「スレッド」(重量級)と比較すると、その手軽さとスケーラビリティが際立つ。
このgoroutineのおかげで、Go言語は「たくさんのリクエストを同時に、高速に捌く」ことが求められる、現代のWebサーバーやマイクロサービスの開発において、非常に強力な選択肢となっているのです。
Go言語に触れる機会があれば、ぜひ go キーワードを使って、goroutineの手軽さとパワーを体感してみてください。